【完】片手間にキスをしないで
───カチャリ。
ぱっくりと円が割れる。ようやく解放された手首を、奈央は水滴を払うように振るった。
「よし、ちゃんと外れましたね」
「ん……じゃあ、解散で」
「……はい」
最後の暗号を手にしたまま、静は俯く。
男同士、手錠プレイ。道行くオーディエンスからあらぬ疑いを掛けられたことが、よほどショックだったらしい。
それとも何か……ペアになりたい相手が、他にいたのか。そいつと鉢合わせをして、別の野郎と繋がれた手首に嫌気が刺したか。
……正否など、聞かずともわかる───手に取るように。
しばらくびくとも動かない静の横を、奈央は淡泊に通り過ぎながら息を吐いた。
「あの……冬原さん!」
まさか、呼び止められるとは思いも寄らず。
「何?」
「いくつか、訊きたいことがあって」
「訊きたいこと?何」
「……泉沢のことです」