【完】片手間にキスをしないで
酸素を取り込み、口から吐く。
彼の一連の動作には繊細ながらもキレがあり、空手部の長を任されていることに納得はした。
が、どうにも解せない。
「なんで今、夏杏耶なんだよ」
「今までも今後も……冬原さんと話す機会、これを逃したら無さそうなんで」
ないだろうな。と、もう一度息を吐きながら視線を返した。
「そもそも、俺と先輩を繋いでるのは泉沢だけだし」
「それはそうだな」
「解せないんです」
「解せない?」
「なんで、泉沢を手放さないのか」
こだまを許さない様に、歯切れよく届く低い声。その眼光が怒りを含んでいることに、奈央はいち早く気が付いた。
「言う必要あんのか、それ」
「あります。教えて下さい。じゃないと俺が、潔く引けない」
「てめぇのためか」
「そうですよ。口悪いっすね」
「生まれつきだ」