【完】片手間にキスをしないで
<夏杏耶side>
「おはよう。夏杏耶ちゃん」
ようやく梅雨明けのニュースが入った7月初め。
後ろに束ねた髪を揺らして外階段を下りる。その途中で、夏杏耶は思わず立ち止まった。
暑さが増してもなおパーカーを纏う鮎世が、視線の先に居たからだ。
「え……なん、」
下りながら、言葉の端を切る。
鮎世は奈央クンの住んでいる場所を知っていたんだっけ。あれ、もしそうなら、私と奈央クンが一緒に住んでるってこと……。
「ごめん、驚かせて。てゆーか、俺も驚いたけど」
「それって、その……私が───」
「うん……一緒に住んでるんでしょ。先に出てきた奈央から聞いた。不機嫌そうだったけどね」
「そ、そうなんだ……」
知られちゃったってこと、だよね。
夏杏耶は距離を詰めながら、暑苦しそうなフードの中の瞳を見据える。
「もしかして私、ストーカーされてた……?」