【完】片手間にキスをしないで
あれを軽口だなんて到底思えない。それでも鮎世が〝最後〟まで伝えようとしないのは、彼がいるからだろう。
答えが決まっていると、分かっているからだろう。
「実はさ、ここを突き止めたのは俺じゃないんだよね」
「……え?」
回想を途中で切られた夏杏耶は、改めて彼に焦点を合わせる。
すると鮎世は後ろを振り向いて、ちょいちょい、と手をこまねいた。
「え……美々?」
「……ごめん、カーヤちゃん」
電柱の後ろに隠れていたらしい彼女は、小さな身体をさらにすくめて顔を出す。
ハーフツインは今日も健在だが、その表情はどこか陰っていた。
「あのね……私なの」
「え……あの、おはよう」
「あ、うん。おはよう」
え、何で今?と言いたげに、少しだけいつもの表情を取り戻す美々は「実はね」と切り出した。
「カーヤちゃんをつけてたのは、私なんだ」
「……?なんで?」
「怒らない?」
「怒らないよ」
「ほんと?」
「うん、ほんと」