【完】片手間にキスをしないで
彼の火照った温度が鼻先から伝ってくるようで、くすぐったい。見えない表情を想像しながら、夏杏耶も同じように顔を熱くさせた。
「つーか、そろそろ寝ろ。明日も学校だろ」
「……うん。そう、なんだけど」
「ん?」
「今日だけ。今夜はやっぱり、奈央クンの傍に居たい」
「夏杏耶、それは……」
「明日、目が覚めたとき。夢じゃないって、思いたいの」
肌に触れたぬくもりも、不器用な言葉も。決して泡とはならないように、今夜だけは───
そう内に秘めて見つめると、彼は「阿呆」と呟く。
「お前は本当……男を分かってない」
そして首元に手を添えながら、優しく身体をベッドに寝かせた。
「分からないよ……私は、奈央クンしか知らないもん」
「分かれよ。今押し倒されてんだぞ」
「押されてないよ。それに奈央クンは、無理やりなんてしない」
心なしか沈むベッド。彼が膝を立てたからだ、と夏杏耶は悟った。