【完】片手間にキスをしないで


「これでもそう言えんのか」


言いながら、顔の横に手を突かれる。覆われるその影に、夏杏耶はコクリと頷いた。


「でも、いいよ」

「は?」

「手、出してもいいよ」


天井に映し出された影が、ゆらゆら揺れる。見据えながら夏杏耶は、彼の腕に触れる。


「ね……奈央クン」


年頃の男女ふたり、同じ屋根の下。好きな人が目の前で、喉を上下させる静かな夜。


何も期待しない方が、おかしいよ。……奈央クンだって、全然女を分かってない。


へし折れた期待も、膨れ上がった我慢も、はち切れそうだ。


「少しくらい、手、出してよ」


捉えた瞳が、途端に丸くなる。徐々に細まったのは、それから数秒、沈黙したあとだった。


「人の気も知らないで……あほ」


覆い被さる彼の体温。一緒にタオルケットに包まれて、なんだか少し息苦しい。たぶん、そのせいだろうか。


「んっ……んぅ」

「……ッ」


少し強引に唇を塞がれると、脳がクラリと疼いた。

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