【完】片手間にキスをしないで
だから、懸命に酸素を取り込む。その合間に瞼を持ち上げると、艶やかな彼の瞳が至近距離で夏杏耶を捉える。
心なしか、彼も苦しそうだ。
それなのにタオルケットで包んでいるのは……他の場所に視線を移させないため、だったりするのかな。
「奈央ク……ん、」
「……」
唇を覆うたびに、スルッ、と優しく撫でられる髪。絶妙なタイミングで、酸素を取り込ませてくれる唇。
放たれる言葉は不器用そのものなのに、キスはこんなにも器用で、甘くて、優しくて。
ずるい……ずるいよ、奈央クン。
「はぁ……っ」
チュクッ、と滑り込む舌先に、恥ずかしいほど素直に反応してしまう身体。
つぎには耳元をなぞった指先に跳ねて、自分のものとは思えない声が出る。
もう、痺れそう……苦しくて甘くて、冗談なしに溶けてしまいそうだ。
「耳、弱いな。お前」
「んっ……だ、だめ……」
「おせぇよ」
「……え?」
「もう、止めても遅い」