【完】片手間にキスをしないで


「決まった形なんてねぇだろ」

「……え、」

「広い世界に行くことだけが、幸せってわけじゃない」


でも、話したのは正解だと思えた。遠くを見つめるように話す彼も、自分と同じなのだと思った。


真っ当な世界ではない世界で、幸せを見出す仲間だと思った。高揚した。勝手にひとりで、盛り上がった。



ある放課後───明るく陽気な女子と歩く奈央を見るまでは。



「夏杏耶、近い」

「えへへ……だって奈央クンの家に行くの久しぶりで、嬉しくて」

「だからってな……少しは人目を気にしろ」

「はぁい」


公園横の舗道で、並んで歩く男女2人。忠告とは対照的に、学ランとセーラー服が寄り添う姿は睦まじく見えた。


弾ける笑顔を条件なしに振りまく少女に、奈央も満更でもないような顔で話している。


「……ッ」


裏切られた───勝手に信頼を覚えて、勝手に失望した。

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