【完】片手間にキスをしないで
『他校に比べて地味だ』———と、うちの制服は評判が悪い。
でも、このグレンチェックのスカートが、私は案外好きだったりする。
そもそもどうして不評なのか、いまいちよく解らない。
だって、可愛いのに。
細すぎず太すぎないプリーツ幅も、派手な髪色になんなく馴染む色味も、気に入っているのに。
淡いオレンジが透ける校舎。
スカートをふわり揺らしながら、泉沢 夏杏耶は颯爽と駆け抜けた。
「……あ。あの子だよ」
「泉沢さんだっけ?いや……ふつうに可愛いよねぇ、髪ふわっふわ」
「でしょう?なんであいつと付き合ってんだろ」
ひそひそ、と繰り広げられるさえずりは一切届かない。たとえそれが、上級生のものだとしても。
……だって〝あのこと〟で頭がいっぱいだったから。
ガラッ———
ある扉を開いた途端、身体に取り込まれる黄ばんだ匂い。それと、曇りガラスの窓際……一角だけ本棚に匿われた指定席。
「奈央クン……!」