【完】片手間にキスをしないで
もしも夏杏耶に何かあったら───
自分を執拗に追い詰めようとする影に、気づいていなかったわけではない。
だからこそ、最初は夏杏耶を遠ざけようとした。同居が始まり、ミャオの手が及んだと知った後は尚更、距離を置こうとした。
───『……奈央クンが好きだから、傍に居たいの』
でも、留まろうとした。そう紡がれたとき、どうしようもなく愛おしいと思った。
もしも彼女に何かあったら、自分は自分で居られなくなるように思えるほど。
「美々ちゃんの彼氏のさ、宮尾海理って覚えてる?……たぶん、ミャオの兄貴だよ」
「は……兄貴?」
「学祭のときもなんか怪しいと思ってて。海理が居なくなった後すぐミャオが来たから、十中八九グルだと思う───で、だからさ。攫うなら、車持ってる海理を使うだろうね」
鮎世と合流したあとも、その思いは拭うことができなかった。返す返事に感情などなく、ただ冷や汗が滲むだけだった。