【完】片手間にキスをしないで


代わりに饒舌になった鮎世が木原美々と連絡を取り、その周囲をしらみつぶしに探ることになった。


「バイト先のカフェと大学……あとは、」

「分かった。俺は大学に行く。お前はカフェに、」

「待って奈央、まだ話の途中───」

「……のせいなんだよ……」

「え?」

「俺のせいなんだよ……全部」


ブォン───!!


通り沿いに排気音が響いたのは、訳もなく鮎世を睨んだ時。聞きなれているような、懐かしいようなその音に、なぜか高揚を覚える。


だが目の前にそのバイクが数台佇んだ後、高揚は気のせいだったかと早々に撤回した。


「鮫島に聞いたよ。夏杏耶ちゃんがピンチだって?」


ろくな挨拶もせず、ヘルメットから長い髪を下ろしながら言うその様に、奈央は不覚にも安堵を覚えた。


「……なんで居んだよ」

「はぁぁ?久しぶりの母ちゃんに向かって、何だその口の利き方はぁ」

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