【完】片手間にキスをしないで


母親にメンチを切られる。


元総長の面影は健在で、長年擦られた特攻服にも違和感はない。どうやら、すでにやる気に満ちていたようだった。


「はいはい、親子喧嘩はあとね。とりあえず今は夏杏耶ちゃん第一。絆奈さんも、協力お願いします」

「おっ、鮎世じゃん!色男になっちゃって……つーか、まだ奈央とつるんでんだねぇ、気持ち悪~」

「絆奈さん、真面目にやってください」

「何言ってんの、大真面目だよ。娘の一大事だからね」


……何が娘だ。クソババァ。


心の内で垂れながら、奈央は冷静になった頭で逡巡する。そしていち早く、夏杏耶を救い出すためのプランを練った。


「とりあえず手分け。応急処置的に救出した後、それぞれが応援を呼ぶ。これしかねぇだろ」

「……うん。俺もそれがいいと思う」

「オッケー、任せて」


午後9時00分───スマホに着信が残る前。最後に見た時刻を、奈央は鮮明に覚えていた。

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