【完】片手間にキスをしないで


……遅いのは、俺の方だった。


「大好き、奈央クン」


どちらからともなく目を閉じる。


奈央は残り僅かの理性を使い切り、触れるだけのキスに留めた序盤。


「……あんま、好き好き言うなよ。薄れる」

「えっ……ごめ、んッ……」


2回目以降は、想定通り歯止めなど効かなくて。伊達眼鏡など、なんの障害にもならなかった。


「ん、ふっ……」

「声、あんま出すなよ」


睡魔と本能の狭間で朦朧とする意識。背徳感も相まって、加速したのだろうか。


彼女の腰を支えながら、奈央は自分でも驚くほどにキスを求めた。自分を「好きだ」と刻むその唇に、幾度も重ねた。


「ぅ……ん」

「声……出てる」

「だ、って……」


隙間を縫って呼吸をする仕草がかわいくて、止まらなくなる。彼女の応答が曖昧になるまで、甘い雨を降らせ続けた。



───そして、夜明け。


「……」


雑魚寝の形で眠る彼女の頬に、触れるだけのキスを捧げた。

< 309 / 330 >

この作品をシェア

pagetop