【完】片手間にキスをしないで
絆奈は前髪をかきあげながら、息子の寝顔に眉を寄せる。
確かに、また身長伸びてたみたいだしなぁ。と、夏杏耶は呑気に笑みを漏らした。
「夏杏耶ちゃん、傷は平気?口の中も切れてたでしょ、痛くない?」
「……へいき、です」
クァッ、と欠伸をしながら覗き込む彼女から目を逸らす。
訊かれて、彼とキスをしたときに感じた深夜の痛みを思い出してしまったからだ。
途中、血の味に気が付いた彼は「……悪い」と言って目を丸くしたけれど、夏杏耶はそれを再び下から掬い上げた。
……本当、なんて大胆なことをしてしまったんだろう。絆奈さんまで居たというのに……。
「よく頑張ったね。夏杏耶ちゃん」
「え……」
「大丈夫だよ。少しだけ手伝ってもらうことはあるけど……あとは、大人に任せなさい」
柔らかい掌が頭に降りる。ぼさぼさの髪を滑るそのぬくもりが、昔覚えた安心感とリンクした。