【完】片手間にキスをしないで
◇
「夏杏耶ちゃん……!!」
その後、事件から数えて2日後。
夏杏耶は登校するなり、美々の抱擁を受けた。そして、前日の事情聴取の際に聞いたあらましの一部を、美々の口からも告げられた。
「あの最低ほう助野郎、次会ったときには私が一発殴ってやるって決めてるから」
彼女は最後にそう一言添えて、次には「夏休み、海行くでしょ?」と話題をすり替えた。
元気に、いつも通りに。そう見せてくれているのだと分かったから尚更、何も言うことは出来なかった。
いや……なんと声を掛けたらいいのか、分からなかったのだと思う。
そんな自分が情けなくて、夏杏耶は部活に精を出す。引越しもあと2日後に迫り、心には一層余裕がなかったからだ。
奈央クンにはああいったくせに……また寂しいとか思ってる。私って本当、欲張りだ。
「邪念」
「……え?」
スパーリングの最中、静に上段回し蹴りを入れられる。寸止めされていなければ、クリティカルヒットしていた事だろう。