【完】片手間にキスをしないで
「また冬原さんとなんかあったか?」
「え……ううん」
静の考察は半分外れ。でも彼なりに、事情こそ知らないものの、美々の様子も含め心配しているようだった。
「まぁ……何かあったら言えよ。なんでも」
「うん。……じゃあ、美々に同じこと言ってあげて」
「え?」
「いまは私じゃ、ダメだから」
美々は、私の前では海理くんを労れない。だから少しでも、静が掬ってあげてほしい───
「じゃあ、また。お疲れさま」
「おー……」
言葉の裏にそう込めながら、夏杏耶は更衣室に駆けていく。
解決すべきことが、もう一つあったからだ。
「奈央クンっ、お待たせ」
「帰るか」
「うん」
生徒玄関で待っていた彼は、柱に預けていた体を起こし、そっと夏杏耶の手を取る。
予想外の行動に、思わず「なんで?!」と目を見開いた。
「その反応こそなんでだよ」
「い、いや……だって、」
奈央クンが嫌いな周りの視線、めちゃくちゃ刺さってるよ……?