【完】片手間にキスをしないで


そう心の内で続けると、彼は伊達メガネをおもむろに外しながら、


「男除けに決まってんだろ」


と、不機嫌そうに放った。


男除けって───奈央クンの素顔が晒されたら、逆の方が心配なんですけど……。


「冬原って、えぇ……あんな感じ?」

「うわ、見せつけじゃん。可愛い彼女いますよってか?むかつくー」


……否、その時はまだ早いかもしれない。


夏杏耶は周りの声に安堵しながら、彼の手を握り返す。高い背丈から流される視線が、心臓を貫いた。


「あーあー、ラブラブしちゃって。俺も一緒にかーえろ」


でも見惚れている暇などなく、後ろから邪魔者が入る。


「どうなってんだよ、お前の思考回路は」

「意外と諦め悪くてさ、俺」

「はぁ?」

「夏杏耶ちゃんのこと、やっぱり好きだなぁって」

「……へ?」


言いやがった、と鮎世を睨む奈央と対照に、夏杏耶は頬を赤く染める。


薄々気づいていたとはいえ、ストレートに伝えられるとさすがに照れた。

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