【完】片手間にキスをしないで
「こういうこと、しにくいだろ」
淡々と紡ぎながら、彼は早くも野菜を取り出す。
「……っ、奈央クン好きっ」
「だからひっつくなって。危ねぇだろ」
調理の合間……前にも確か、同じシチュエーションがあったっけ。
あの時は、もっとこっちを見てほしいって。物足りない、と思っていたっけ。
「沢山しようね」
「煽んな」
でも今は、酔いしれているのは私だけじゃないと分かる。だからこそ、思うんだ。
「あと……俺も好きだよ」
───日常に塗れる片手間なキスも、きっと案外悪くない。
End.