【完】片手間にキスをしないで
だからだろうか。夏休みが明けても彼らからの呼び名は『転校生』のままで、自分だけ時間が止まっているようだった。
周りを囲うのは女の子だけ。それでも性別問わず、自分に興味を持ってくれることは素直に嬉しかった。
なんとも、素直だった昔の俺。
『春永くんの家って、もしかしてあの大きいお屋敷?川沿いの』
『うん、そうそう。良かったら今度遊びにおいでよ』
『えっ、いいの⁈ てゆーか、やっぱり他の男子と違うよねー。行動も上品っていうか』
『わかる~っ。意外と話しやすいし、こんなことなら夏休みも思い切って誘えばよかったぁ。ねぇねぇ、次からアユって呼んでもいい?』
そしてなんとも可愛いことに、満更ではなかった。
ただ男子から刺さる視線は一層尖っていき、
『女みたいな名前しやがって、気色悪い。あいつこの前も女子とつるんでたし』
『つーか、実際生臭いよな。アユって、あの鮎ってことだろ?』
『哀れまれてること、分かってないんじゃねぇの?』