【完】片手間にキスをしないで


──────……


今思えば、あれは母親(絆奈さん)の受け売りだったんだろうなぁ……。


思い返しながら鮎世は、目の前を歩く2つの背を見据える。


「絆奈さん、帰っちゃったね。なんか寂しいな……私」

「居ない方がいいだろ」

「そんなことは……ない、けど」

「ん、はっきり言えよ。聴こえない」

「……奈央クンと、2人きりも嬉しい、から」

「だろうな」

「わっ、分かってるのに言わせたの……?!」


朗らかに笑い合う、お似合いの2人。蒸し暑さの合間を縫って吹く風が心地よくて、こちらまで伝染してくる。


夏杏耶ちゃん、奈央って案外お母ちゃん子でさ、マザコンでさ。昔は俺と〝悪いこと〟してた頃もあるんだよ。


……って、当然知ってるか。その裏にある優しさを知っているから、夏杏耶ちゃんは奈央を───


「あのさぁ、俺いること忘れてない?」

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