【完】片手間にキスをしないで
「……何で今なんだよ」
下着を匿ったせいでもったりとしたお腹を、彼は息をつきながら見据えて言った。
「理由って、欲しい?」
「は?」
「キスする理由なんて……私は、要らないと思う」
だって、恋人同士だよ?───続けながら距離を詰める自分に、ほとほと呆れてしまう。
根拠のない、空虚な理由でも、彼に触れられるなら何でもいい。そう巡ってしまう思考も稚拙だ。
「……俺にはいるんだよ」
「え?」
「俺には、お前に触れる理由が欲しい」
コツン。肩にも腕にも触れず、額だけを重ねる奈央。彼の方が体温が高いのか、伝った熱が身体の芯に流れてくるようだった。
下着を覆っていなければ。手が塞がっていなければ……すぐさまその頬に触れてしまえたのに。
「それってどういう……」
「言わねぇよ」
「えぇっ……寸止め」
ふっ、と笑みを漏らして遠ざかる彼に、夏杏耶は負けじと近づく。