【完】片手間にキスをしないで

「秘密ばっかり……ずるい。奈央クンはずるい」

「はいはい、ずるいよ俺は」

「こうなったら、私も秘密作るから」

「好きにすれば」


いま絶対、アホだと思ったでしょう……。「ん?」と怪訝そうに首を傾げた素振りを、夏杏耶は見逃さなかった。


「好きにするもんっ。今日も明日も奈央クンのシャンプー使って、学校の皆に『同じ匂いする』って感づかせちゃうもん」

「おま……それが狙いか」

「ふん。好きにしろって言ったのは奈央クンだからね」

「だからってなぁ……ハァ……」


困ってる。私の事で困ってる。振り回されてる。その光景が珍しくて、妙に心の内をくすぐった。


「じゃあ、キスしたらやめてあげる」

「強要かよ」

「チューしないとシャンプー浴びちゃうから」

「恐喝かよ」

「でもこれで……理由、できたでしょ?」


我ながら名案。強要だ恐喝だと罵られたって、全然(こた)えない。


久しく、彼から唇を重ねてくれるのなら。
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