【完】片手間にキスをしないで
「うそつけ」と笑う彼、若槻 静は、同じ空手部の同級生。加えて部長だったりする。
生まれつき色素の薄い髪とは裏腹、帯は初段を示す黒で、部内では1番強い。
だから、こういうあどけない笑みを見せる彼を、密かに『ミーハーホイホイ』と呼んでいる。
夕方の部活になると「ギャップ最高~!!」って、たまに聴こえてくるんだもの。
「もしかして、冬原先輩となんかあった?」
「だ、だから何もないって……」
「ふーん。ま……変わんないか、あの人は」
「え?」
「先輩が泉沢にデレてるとことか、想像できない」
そんなの、わかんないじゃん。いつか甘えてくれるかもしれないじゃん。だって、これからはチャンスが目白押しで……
って、言っちゃいけないんだってば。
条件反射。脳裏に浮かんだ反論を打ち消すように、急いで覆う。
同時にその口元が緩んでいることに、夏杏耶は今更気が付いた。