【完】片手間にキスをしないで

 ◇

「ヒミツのひとつやふたつあるでしょ~、あの朴念仁(ぼくねんじん)にも」

「……ニンジン?」

「朴念仁。意味は自分でググってね」


2年1組、朝礼前の十数分。


新学期早々、窓際後列ポジションを獲得した夏杏耶は、ネイルを施しながら放つ木原(きはら) 美々(みみ)を前に俯いた。


「やっぱり、探るのって良くないかなぁ……」


小柄で童顔な見た目とは裏腹、恋愛経験の豊富な美々には、こうしてときどき彼の相談をしていたりする。


ただ、オシャレも勉強も恋愛も人一倍真っすぐな彼女は、


「あー。それはうざいかも」


と、紡ぐ言葉もかなり直球。


なので、周りの女子から敬遠されることもあったみたいだけど、何かと疎い自分にとっては、この物言いが心地良かったりする。


夏杏耶は綺麗に整えられた彼女のハーフツインを見据え、「うーん」と唸った。


「知りたいって思うのは、欲張りかな……」

「別に欲張りじゃないよ。普通だけどさ。カーヤちゃんには荷が重いっていうか」
< 42 / 330 >

この作品をシェア

pagetop