【完】片手間にキスをしないで

彼氏こと冬原(ふゆはら) 奈央(なお)———ひとつ上の高校3年生。


学内では〝地味男〟で通っている彼とは、進級してからもプラトニックな関係で。


周りから「本当に付き合ってんの?」と(いぶか)し気に迫られることも少なくない。


いやいや、それでも全然、まったく……不満があるわけじゃないけれど。


だって、小さい頃からずっと追いかけて来た彼と恋人同士になれただけで、私は超幸せだから。


それに……これからは、とっておきがある。


「奈央ク……」

「悪いけど、今日は相手できない」

「え?」

「立て込んでる。話なら夜電話で聞くから」

「夜、か……いやでも、」

「夏杏耶」


レンズの奥で光る鋭い瞳に、夏杏耶はゴクリと喉を鳴らす。裏に隠された言葉が、無言で肌を伝うようだった。


……これは、本気で帰れと言っている。


「分かった……邪魔してごめんね。またね」

「ん……気を付けて帰れよ」

「~~ッ、奈央クン好き!」

「うるさい」
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