【完】片手間にキスをしないで
キス……これって、奈央クンからのキス……?!
瞼を閉じては開いて、を。たった1,2秒の間に何度繰り返したことだろう。
夏杏耶は離れていく薄い唇を、湿った瞳で凝視した。
「やっと黙ったな」
にやり。持ち上がる口角が、いつも以上に艶っぽい。
唐突なキスの合間に当たった〝伊達〟のフレームまで色めき立って見えるほど、軽率に溺れた。
「~~っ……奈央クンっ、今の……!」
「口封じ」
「……へ?」
「だから来んなよ。あそこには」
言いながら、落とした包丁へ平然と手を伸ばす奈央。
夏杏耶はその腕を引いて、彼を正面に向かせた。さっきは唐突で、片手間で……全然こっちを見てくれなかったから。
「もういっかい。キス、します」
「飯、遅くなんぞ」
「これが私のご馳走だもん」
「やっぱ阿呆だな」
フッ、と落とされる息。すべてが尊い。