【完】片手間にキスをしないで
───何て言ったの、と訊く間もなく。
「んぅ……?!」
肩を引き寄せられて、強引に。漏れた吐息とともに、唇が重なった。
え、え……え……? 目の前にいるのって、本当に奈央クンだよね……?
勢いで閉じてしまった瞼を、持ち上げようとするも束の間。
「見んな」
「えっ……ふ、ん」
チュク───と、なだれ込む彼の香り。角度を変えて、否応なく再び。
「……っ」
でも、肩だけを支える手はどこか心もとなくて。腰が砕けたら、きっと終わってしまう。
だから、懸命に耐えた。
あぁぁ……痺れてもう、狂いそう。心臓がうるさくて、自分の息遣いさえ聴こえない。
「ぅ、ん……」
でも奈央クン、やめないで。気まぐれでも……夢でもいいから。
あと少し、このままでいさせて———
夏杏耶は従順に目を閉じたまま、愛おしい体温に思いを馳せる。
キスが止んだのは、その直後だった。
「悪い」
あっけなく、たった一言。彼は告げて、身体を剥した。