【完】片手間にキスをしないで
───『……がまんしないで泣けば? 女の子だろ』
懐かしい夢を見た。
奈央クンと、初めて出会った場面。
私は今でこそ平均的だけど、当時は男子よりもはるかに背が高くて『気味が悪い』と煙たがられていた。
『見下ろされるのが気に食わない』と石を投げつけられたり、『本当に女なのか』と服をまさぐられそうになったこともある。
肩につかないくらいのショートカットだったから、尚更。
あれから髪を伸ばして、ずっとロングヘアでいるのは、あの頃の呪いが効いているからかもしれない。
でも残っているのは、悪い思い出だけじゃなかった。
『きたねぇ……ほんと、きたねぇわ。お前ら』
奈央クンと、出会えたから。
『ごめん。ハンカチは持ってねぇから』
彼はクスリとも笑わずに。ただ、泥にまみれた顔を拭うように──と、自分の体操着を差しだした。
『目、瞑ってろ』
それから———ものの数十秒後。
泥団子を投げつけてきた男子たちは、捨て台詞を吐きながら去っていた。
『覚えてろよ……ッ、お前ら!!』
と。