【完】片手間にキスをしないで
無意識とかマジありえねぇ───
そう続ける彼の体温が、心なしか熱い。朝だから……かな。
「ごめんなさい……なんでだろう、記憶になくて」
「無自覚か。やべぇな」
「あ、いや、でもすこし……お水飲んだ後、奈央クンの寝顔見たいなって……」
うん。少しというか、鮮明に思い出してきた。
あわよくば、の下心。
同居を始めてもう二週間以上経つというのに、まったくそれらしいことが出来ていない。
脱衣所ハプニングもなければ、手料理を振る舞う隙さえ与えられず。
キスだって……〝あれ〟以来一度もなし。(むしろ避けられてる)
だったらいっそ、自分から……と。彼の体温が籠ったぬくい布団へ包まったんだ。
「わかった……もういいから、早く退け」
「えっ、い、いや、もう少しだけ……」
夏杏耶は負けじと、彼の胸の中に身体を埋める。
薄地のトレーナーに染みついた香りが、図らずとも脳を溶かした。
やばい……私一生、このままでもいいかも……。