【完】片手間にキスをしないで


この一途さと、執着心、依存心。自分にも通ずるものだ、と夏杏耶はいまさら気が付いて。


同族嫌悪……彼に抱いていた気持ちを、ようやく整理できたような気がした。


「でも、それならどうして奈央クンのところに行かないで、私にばっかり……」

「『将を射んとする者は、まず馬を射よ』」

「え?」

「奈央を説得させるためには、その恋人から懐柔(かいじゅう)させちゃいましょう、って魂胆」

「……はぁ、」


あんまり難しい言葉ばっか使わないで……。


夏杏耶は首を捻りながら意味を探る。鮎世はその様子を見兼ね、改めて紡いだ。


「夏杏耶ちゃんが本気で説得すれば、奈央は折れる。だから伝えにきたんだよ」

「え……でも、私が言ったって奈央クンには響かないよ、絶対」

「あんなに寵愛してるのに?」

「……愛? 何を?」

「奈央が夏杏耶ちゃんを、だよ」


真剣な眼差し。とはいえ、この人の目は節穴なのだろうと確信した。

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