【完】片手間にキスをしないで
「節操ないって……どこが?」
「あぁ?」
ドスの効いた声も新鮮なのに加えて、ギュッ、と抱え込まれる温度に心臓が飛び跳ねる。
こんなの全然、免疫ないよ……。
何故かにやつく鮎世を前に、夏杏耶は顔を火照らせた。
当たり前だけど、全然違う。鮎世とは、全然。……私の沸点、奈央クンだとバグっちゃうみたいだ。
「悪いけど、本気で仕掛けたつもりだよ」
「本気? 何がだ」
「あれ。奈央って偏差値高いんでしょ? 読解力ないの?」
「てめぇ……喧嘩売ってんのか」
てめぇ、2回目。
ドキリと心臓が音を上げてしまうのは、自分がマゾだからだろうか。と、夏杏耶は真剣に巡らせていた。
「節操ないんじゃなくて、本気で狙うってこと」
「……は?」
「夏杏耶ちゃんだよ。もう分かる?意味」
ゴンッ───
今度は、鈍い音が響いた。鮎世が、奈央に額を這わせた音。
「本気だよ。嫌ならぶつかれよ……昔みたいにさ」
……否。故意に、ぶつけた音だった。