冷酷無慈悲な騎士団長様は、純粋でとびきり甘い転生者!?
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私のメイド達は、香油をたっぷり入れたお風呂を入れてくれ、念入りに支度をしてくれたけれど、私は護衛に頼んで、身を守るためのあるものを用意しておいた。
皇族の女性だけが持つことを許される、扇。
毒を挿入しているので、持ち手に力を込めれば扇の先端から毒がしたたり落ちる。
扇で頬を打つ瞬間、毒も一緒に掠めれば、獰猛な獣も一瞬で倒れる毒だ。
薔薇の花びらを数えるよりも先に、彼は命を落としてしまうに違いない。
これは私しかできない。
女で、立場が上で、唯一相手が油断する相手。
初めて夜を共にする日。
甘く酔ってしまうような強いお香を焚いて、私は扇で顔を隠して、彼を待つ。
廊下を、せっかちな足音が大きく響く。
ノックをされたが、返事はしてやらなかった。
声をかけられても、返事はしてあげなかった。
それでも薔薇を持って入ってくる相手に、扇から片目だけ覗かせて、睨み付けた。
「その薔薇をよく見せて。私の前で跪いて」