身ごもりましたが、結婚できません~御曹司との甘すぎる懐妊事情~
黙り込んだままの柊吾に、凛音は首をかしげた。

「凛音」

柊吾は凛音を見つめ、ためらいがちに口を開いた。

どこか思いつめた表情で瞳は微かに揺れている。

「俺はたしかに瑞生の片腕に近い仕事をしていて、凛音を手の届く場所に置いて……だけどこの先もしも――」

話の途中で柊吾はふと口を閉ざし、目を伏せた。

まつげが眼下に影を作り小さく震えている。

「柊吾さん? あの……」
 
なにも話そうとしない柊吾に、凛音はなにがあったのかと不安になる。

思わず距離を詰め、柊吾の胸に手を置いた。

「なにかあったんですか?」

心細い声音を聞き取ったのか、柊吾がハッと顔を上げた。

しばらくの間じっと凛音を見つめた後、それまでの固い表情をふっと緩め改めて凛音に向き直る。

「今はいいか……。二週間も離れる前にする話じゃないな」

いったい柊吾はなにを言おうとしているのだろう。

「――あ」

凛音は背中がすっと冷たくなるのを感じた。

見合いの件を、北海道に行く前に打ち明けようとしているのかもしれない。

「凛音」

「はい……」

凛音は震えそうになる唇を強く引き結び息を詰めた。



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