身ごもりましたが、結婚できません~御曹司との甘すぎる懐妊事情~
忘れられない初恋のひと
いくつもの有名企業が建ち並ぶオフィス街の一等地に凛音と柊吾が勤務するハギモリビール本社はある。
駅から近く広い敷地にそびえるビルは遠目からも目立っていて、そこには萩森ホールディングスをはじめグループ企業の本社がいくつか集まっている。
凛音は制服に着替えて秘書課に顔を出した後、社長室に向かった。
社長の瑞生のサポートが凛音の主な仕事だが、瑞生が秘書や部下の手を煩わせることは滅多にない。
今日も社長室に足を踏み入れた途端目に入ったのは、自ら淹れたコーヒーを傍らに置きパソコンに向かう瑞生の姿だった。
いくら前社長の長男だとしても三十四歳という若さでの社長就任は早すぎるのではないかという声もあったが、前社長の判断と本人のこれまでの実績によって昨年の株主総会で承認された。
いずれは萩森ホールディングスのトップに立つ身である瑞生は、社長就任直前に結婚し今は公私ともに充実している。
「おはようございます」
凛音はタブレットを片手に瑞生に声をかけた。
いつもより早めに出社したというのに社長の方が早く仕事を始めていて焦る。