身ごもりましたが、結婚できません~御曹司との甘すぎる懐妊事情~
「うーん。香波の母親……俺の叔母がうるさいんだ。同い年の俺が結婚していよいよ焦り始めたみたいだ」
 
深いため息をひとつ吐き出し、瑞生はうんざりした声でそう言った。

瑞生のいとことなれば、小高香波は萩森グループのご令嬢だ。

アナウンサーとしての才能と美貌だけでも羨ましいが、それに加えて生まれも華やか。

凛音は同じ女性なのに自分とはまるで違うと苦笑した。

「そこでだ。俺はいい案を思いついたんだ」
 
瑞生はもったいぶった声で言葉を続けた。

「は、はい」
 
凛音は瑞生の声にハッと顔を向ける。

「叔母に何度も電話で愚痴をこぼされて面倒だから、香波にさっさと結婚してもらうために柊吾と見合いをさせようと思ってるんだ。あのふたり、お似合いだと思わないか?」
 
それまで背もたれに預けていた体を前のめりに傾け、瑞生はまっすぐ凛音を見つめる。

反応をうかがうような強い視線に凛音はたじろいだ。

「えっと、お見合い……柊吾さんと……いえ、壬生課長が、ですか」
 
凛音は気弱な声で聞き返す。

突然柊吾の名前が出ただけでなく、見合いという想定外の言葉が続き動揺を隠せない。

「柊吾もそろそろ結婚したいって言ってたし、ふたりは同い年だからちょうどいいだろう? だけど柊吾が結婚となると社内の女性社員が騒いで大変だろうな。相手が香波なら尚更だ」

「……そうですね」
 
凛音と柊吾の関係を知らない瑞生の弾んだ声についそう答えたものの、凛音の表情は固くタブレットを持つ手は震えていた。

 
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