身ごもりましたが、結婚できません~御曹司との甘すぎる懐妊事情~
「面倒なこと?」

「……いや、いい」
 
柊吾は凛音の問いには答えず、両手で凛音の頬を包み込んだ。

温かいどころか熱いくらいの柊吾の手は優しく、ときおりくすぐるように小刻みに動く。

凛音は嫌がる素振りも見せず、むしろせがむように柊吾の手に自分の手を重ね頬を寄せた。

大きく骨ばった柊吾の手からじわじわと温もりが広がり、凛音は胸がいっぱいになる。

「これって、かわいがるっていうより面白がってますよね」
 
くすぐったさに小さく身をよじりながら、凛音は上目遣いで柊吾を見つめた。

頬を上気させ目を潤ませた凛音の艶のある表情に柊吾はわずかに口角を上げ、にやりと笑った。

「本当、かわいすぎるんだよ――」

柊吾が言い終わるよりも前に湿り気を帯びた唇が強く押しつけられ、凛音は思わず目を閉じた。

自然と舌が絡み合う。

「んっ……」
 
しっとり濡れた音がやけに大きく響く。

船が揺れる音なのか、ぴったりと重なったふたりの唇から漏れる音なのか、夢中でキスを続けているせいでわからない。

凛音は自ら角度を変え舌を差し出し、柊吾の動きに応え続ける。


< 64 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop