百怪談
「ねぇ、お姉ちゃん。

今からどこに行くの?」



裕也のその問いに私は力なくこう答えました。



「どこに行こうっか。

行く場所ないね」



家の外は冷たい風が吹いていました。



行く当てのない私たちは素直に家に帰るべきだったのかもしれません。



でもそうしたなら、私たちは謝りたくもないのに、あの継母に謝らなくてはいけなくなります。



そんなこじらせた感情が私たちを意味もなく街を歩かせていたのだと思います。



そして辺りが暗くなり始めた頃、裕也が私にこう言ったのです。



「お姉ちゃん、どうしてお母さんは死んだのかなぁ?

お母さんがいてくれたら、僕たちはさみしくなんてなかったのに……」



私は裕也のその言葉に泣きそうになっていました。



もしもお母さんが生きていたなら、私たちは今でも笑っていたのでしょうか?



そんな存在することのないもう一つの世界が、私の脳裏に浮かんで私の胸をしめつけたのです。



本当のお母さんに会いたい。



私が心の中で強くそう願ったとき、裕也は今にも泣きそうな声で私にこう言いました。



「ねぇ、お姉ちゃん。

もしも僕たちが死んだら、お母さんのところに行けるのかなぁ」
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