赤色の雨が降る頃に
Just to live

The news

 この街も随分と変わった。僕が小さかった頃にはなかったものが日々増えていく。あの頃は金の価値がぐちゃぐちゃになって、みんな慌ててたっけ。そのせいで戦争とかいう茶番まで始まって。まあ、僕たちの種族には何の関係もないけどね。
 「お客様、お飲み物はどういたしましょうか」
 「スプライトでお願いします」
 「かしこまりました」
 あの頃はこんな飲み物もなかったような。
 便利になるぶんにはいいけれど、電波が飛び始めてからどうも調子が悪い。やたらと血が欲しくなるのだ。抑えられない程ではないが、どうも不愉快だ。また明日の夜、屠殺場に血のおこぼれをもらいに行こう。
 
 以前、母は言った。
 「何であなたは血がなくても平気なの」
 平気なはずがない。気力で耐えているのだ。生きるためとはいえ、人を殺めることには少なからず抵抗がある。人の人生を奪うなど到底できる気がしない。それに僕は貧弱だ。飼っていたコウモリから伝染病にかかり、高熱を出したことがある。それに、離乳食として与えられた子供の血の型が合わず、ひどいアレルギー反応を示したことも。そんな僕は、家畜の血を少し吸っているくらいが丁度いいのだ。あとは、人間の食べ物で生きていけることだし。
 
 「お客様、ご準備ができ次第お呼びしますので、こちらの番号札を持ってお待ちください」
 「分かりました」
 そういえば、あいつらは何してるんだろう。クリスとはたまに連絡を取る。それから、セレナはニンニクを食わされて死んだって聞いたが、他の奴らは…。連絡を取らないものだから全く分からない。携帯の電話帳を開いてみるも、そこには人間の知り合いの名前ばかり。この世界で生きていくには、このほうがいいのかもな。
 「番号でお呼びいたします。52番でお待ちの方、52番でお待ちの方。ご準備ができました」
 「はい」
 「商品がこちらになります。えー、代金が7ドル85セントです」
 ちょうどの金をトレーに出す。
 「ちょうど、いただきます。こちら、レシートです。ありがとうございました。またお越しください」
 店員は計算された笑顔でこちらを見ていた。僕は、軽く頭を下げて店を出た。
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