最低狩り
花奈サイド
バン、と机を叩くと、乗っていたコーヒーカップが振動で揺れる。
「ちょっと!彼を採用するって、貴方達何を考えてるの!?」
机の上にできた小さな小さな水溜まりを目撃するまで、自分が唾を飛ばしていたことにも気付かないほど熱中していた。
「え……だって彼、伊達さん、でしたよね?」
「そうそう!採用して、損はないわ」
にこやかに受け入れようとする従業員に抗議する。
「で、でも彼、かなり生活態度が危険というか、良くないというか。とにかく、チャラチャラしてるんです!貴方達も現場、見たでしょう?」
「見ましたけど……」
「お姫様、とか、レディとか。思い出すだけで鳥肌ものだわ。最低よね〜」
「でしょう?気持ち悪いでしょ!?」
必死に同意を求める。
「でもだからって、落とす必要はなくないですか?」
「もし彼がお客様に何かしでかしたら、どうするつもり!?」
「それは、教育ですよ〜」
「じゃ、多数決で迎え入れること、決定ね〜」
きゃははは、と転がるように笑う能天気豚共に心底、吐き気がする。
それは、教育ですよ、ですって?
――教育するのは、私でしょ?
あんな奴が、簡単に変わる訳ないじゃない。
あの目の濁り様を見れば一発なのに、何故こいつらは気づかない。
だけど、あの目はどこかで見たような――。
今、そんなことはどうでもいい。
ここの店長は、私。
勝手に仕切らないでほしい。
1人なら、何もできない癖に。
束になると、急に強く出てきて。
金に目がない、この豚共に私の店が操られるなんて。
……仕方がない。
束になられると、敵わない。
受け入れるしか、ない。
何とかして受け入れる覚悟を決めた。