最低狩り
サ、サ、サ、と見えないようなゴミを掃く。
掃除するのが時間の無駄に思えてくるような綺麗さだ。
掃除、する意味無いんじゃねぇか?
はは……と1人で呆れ笑いを落とすと、静かに花奈から怒りの圧がかけられた。
こえー……。
とはいえ、このまま真面目に掃除をしていても、面白くない。
これをすれば、123%花奈は怒るが、こうでもしないと、バイトをすぐ辞めてしまいそうだ。
こんなときに教師人生で培われたコミュニケーション力が生かされるとは、思ってもみなかった。
幸い、花奈は俺を睨みつけた後、接客に回った。
今がチャンスだ。
「お客様」
茶髪の、少し軽そうな、だがそこそこに美人な女客に声をかける。
彼氏へのプレゼントなのだろうか。
さっきから、花言葉が『好き』のような愛を示す花ばかり見ている。
「彼氏さんへのプレゼントでしょうか。きっと喜ばれますよ」
その女客の、元々大きな瞳が、更に大きく開かれた。
頬が一気に赤く染まり、唇と睫毛は震え、眉根はぎゅっと寄せられている。
図星か。
茶髪と化粧のせいで軽そうに見えたが、意外にウブな反応に、ドキン、と心臓がなった。
「そうですねー、でしたら、こちらの……」
アンスリウムや、バラなんてどうでしょう、と続けるつもりだった。
「ちょっ……え!?ちょっとこちらへ!!」
女客の細い腕を掴み、力が抜けてしまっているのを無理矢理バックヤードまで引き込んだ。