最低狩り

***

「……は?」

脳内の靄が晴れ、視界が開ける。

ここは……美奈の部屋。

部屋のものが横に見えることから、俺自身が倒れていることを理解した。

まだ、少し痺れが残っていたが、そんなもの何にも関係無かった。

両手、両足が縄で縛られ、口はガムテープで塞がれている。

完全に、体の自由を奪われた状態だ。

一体、何が起きた。

あの化け物のような表情……真奈ではなかった。

あれは誰?

そして、真奈は……?

「あ、やっと起きた?」

ずん、と美形がドアップになった。

さらさらの栗色の髪が睫毛にかかり、粗い影を落とす。

長い睫毛に縁取られた色素の薄い瞳は、乱暴な輝きを放っていた。

まるで、獲物を見つけた肉食獣のような。

そんな怒りに狂った顔上半分に対し、下半分は、余裕、いや、単に楽しんでいるのかもしれない。
 
頬が紅潮し、唇は妖しげに歪んでいた。

「状況、理解できてないでしょ」

歓喜を抑え込んだような、くぐもった声だ。

「んー、どこから話そっかなぁ」

俺から視線を外さぬまま、人差し指を顎に当てて楽しんでいる。

声は高めで潤沢、仕草はゆったりとして大人っぽい。 

声変わりのしていない男のようにも、ボーイッシュだが艶やかな魅力のある女のようにも見えた。 

この、中性のような独特な感じ、どこかで……。

「あ、そうだ。言い忘れてたんだけど、さっきスタンガンで気絶させたから、しばらくはまともに動けないよ〜。逃げようとしても無駄ってこと。ま、その状態じゃ、どの道無理だろうけどね〜」

楽しそうに話す男の後ろで、かたり、と静かにドアが開いた。

入ってきた人物を見て、目を見開いた。

汗がこめかみをうまく伝わらず、横に流れ、目のすぐ側を通った。

俺の知るそいつは俺の側に来ると、躊躇いもなく、俺の腹を抉った。

「……!」

胃が押し潰され、内容物がせり上がる。
 
ぐい、と更に足を食い込ませ、肉が裂けるような痛みを与えられた。

あまりの痛みに、生理的な涙が滲んだ。

どうして……。

「わぁ、流石。最初からハードだねぇ」

パチパチ、とにこやかに拍手を贈る男。
 
俺の腹を抉ったのは……。

さっき振り切ったはずの花奈、だった。

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