最低狩り
「は……?」
視界が揺らぎ、心臓が激しく脈打つ。
呼吸が荒れ、無意識のうちに拳を力強く握り締めていた。
花奈が『松谷くん』に何か話していたが、耳がショックで機能せず、うまく聞き取れなかった。
吐き気で喉が塞がれる。
「いや〜爽快だったなぁ。飛び散る鮮血、悪魔のような断末魔、憎悪に満ちた表情。思い出すだけでゾクゾクするよ」
頬を気持ち良さそうに紅潮させ、ペロリと唇を舐める様子が、また楽しげで。
……何なんだよ、こいつ等。
怒りに、歯ぎしりの音が鈍く響いた。
「……お前等、命を何だと思ってんだよ」
「人を殺して楽しいか?嬉しいか!?失われた命は、もう戻ることはできないんだぞ!?真奈を返せよ!返せよ……返せ……!」
喉に貼り付いた恐怖と憎悪で、声が掠れた。
……ごめん、美奈。
約束、守れなかった。
"あの人"を、守り切ることが、できなかった。
「いいねー、その表情。やっぱりゾクゾクするよ」
楽しそうな『松谷くん』に対し、明らかに不機嫌な花奈の声が低く俺にのしかかかった。
「……返せ、だと?」
パシッ
頬に焼けるような痛みが走った。
何度も、何度も、両頬を花奈の右の掌が往復し、揺れる脳みそがジンジンと鈍い痛みを感じる。
車酔いをしたような、浮ついた感覚だ。
「お前が言えることじゃねぇだろ!?」
遂に馬乗りになられ、更に胃が押される。
食べた物がせり上がってくるのを感じながら、痛みに耐えた。
「お前は、自分がとれだけの人の大切なものを奪ったか、知ってるかよ!命だけじゃない、未来だって、夢だって、人の心だって!全部、奪い、捨て、軽く扱った!」
「ごほっ、ごほっ」
鬼のように責め立てる花奈の前に、吐血した。
鉄の味が広がり、花奈の言葉も痛みを伴いながら埋め込まれた。
……奪った?
……軽く、扱った?
……俺、が?
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。