最低狩り
花奈サイド
お姉ちゃんは、聖人のような人だった。
見た目は、マシュマロみたいなもちもちの白い頬で、瞬きだけで風が起こりそうな長い睫毛、薄く桃色のぷるんとした唇、何より一番印象的なのは、瞳。
いつもラメを入れたみたいにキラキラ輝いていて、それでいて、そのラメのような機械的な煌めきじやない。
自然に生まれた、純粋な煌めき。
今にも後光が差し込んできそうな、そんな温かい雰囲気を持っていた。
だからといって、勉強ができない訳じゃない。
どの教科もオールマイティにこなし、実技も完璧。
才色兼備、という四字熟語の為に生まれてきたようなものだ。
だから、周りから慕われ、尊敬され、時に、優遇されて。
私の自慢のお姉ちゃんだった。
私の唯一の自慢だった、と言ってもいい。
私は、お姉ちゃんとは真逆の性格をしていた。
根暗で、暗く、運動音痴で、友達も少ない。
お下げ髪、伊達眼鏡、前髪が長い、といった陰キャの三拍子が揃っていた。
勉強は、そこそこにできたが、お姉ちゃん程じゃなかった。
何かと対比されることも多く、屈辱的な思いをしたこともあったが、その度にお姉ちゃんは、「花奈には、花奈のいいところがあるよ。それに、私は花奈が大好きだから」と言って、花のようにふんわりと笑う。
だから、段々とお姉ちゃんを真似るようになった。
伊達眼鏡は外し、化粧を寄せて。
お姉ちゃんがショートヘアにすれば、お下げ髪と前髪を躊躇なく断ち。
鏡に向かってあの笑顔を作り出し。
口調と声色を甘く、高く、優しく。
実技も、放課後に1人居残りして、先生に教えてもらった。
そうして私は、お姉ちゃんに近づいていった。
でも、私が生花店に努め始めたら頃、だっただろうか。
その時、お姉ちゃんはとうに結婚し、子供も生まれていた。
お姉ちゃんのことだから円満な家庭になっているのだろう、と想像していた。