最低狩り
ところが、久し振りに会ってみるとどうだ。
お姉ちゃんが、お姉ちゃんで無くなっていた。
まるで、生気を抜き取られた、屍のような。
花のような笑顔は萎れ、声にも水気が無い。
話を振っても上の空で、異変は感じていたが、お姉ちゃんが「大丈夫だよ」と焦って言うので、それを鵜呑みにしてしまった。
お姉ちゃんは突然、家の窓から飛び降りた。
その報せを受け、慌てて病院に向かうと、虫の息のお姉ちゃんが多くの管で色々な機械と繋がれていた。
お姉ちゃんは、死ぬか生きるかの瀬戸際だというのに、あの花の笑顔で笑い、花弁のような唇を動かした。
「あの人をよろしくね」
確かにそう言い、くしゃり、とまた笑うのを合図にピー、という冷酷な機械音が響いた。
しばらく、"あの人"が誰か分からなかった。
自殺の明確な原因も分からなかった。
そう、私の憎しみの栓は、突然、外された。
お姉ちゃんの死から数日後、警察に呼ばれた。
お姉ちゃんの遺体から、多くの痣が見つかったという。
……痣?
あの男の顔が浮かんだ。
八蔔、とかいったか。
私は、何も知らないとだけ答え、その場をやり過ごした。
後日、私はその男について調べ始めた。
お姉ちゃんの旦那さんについて、全く知らなかったので、多くの目新しい情報が収集できた。
伊達八蔔、38歳。
高校体育教師。
過去に何度も不祥事を起こしたが、伊達家の名を使い、揉み消してきたという。
不祥事の大半は、生徒への暴力だった。
女誑しで、気障なところがあり、軽い印象を受けた、という人もいた。
総合的に見ると、八蔔に対して良い印象を抱いている者は少ないようだ。
また、酒好きでもあり、それで不祥事を起こしたこともあるそうだ。
私の疑いは、より濃くなった。
そして、情報収集を続けていると、決定的と言っても過言ではない証言が出てきた。
"時折、女の人と男の人の大声が聞こえる。大きな物音もする"
そう、八蔔はお姉ちゃんに暴力をふるっていたのだ。
会話の内容までは聞き取れ無かったそうだが、恐らく予想は正しいだろう。
頻繁に外出することも多くなったそうだ。
私の中に、どす黒い炎が燃え盛った。
憎い。
憎い。
憎い憎い憎い!!!