最低狩り
八蔔サイド
「え……?」
まじまじと花奈を見つめる。
今にも泣き叫びそうな張り詰めた表情が、美奈と重なった。
「そんな……美奈に……妹がいたなんて……聞いていない」
「……っ!」
殆ど放心状態の俺が虚ろに発した言葉がエネルギーとなったのか、ぎゅっと、俺の胸倉を掴む力が再び強くなった。
「……あぁ、そうだよ!お姉ちゃんは敢えて言わなかったんだよ!!私を巻き込まないために!!」
涙と鼻水でぐずぐずの顔には、いつの間にか俺の血が付き、彼女の中の怨念を、そのまま具現化したようなものになっていた。
「お前はお姉ちゃんを苦しめ、追い詰め、手をあげた。それでもお姉ちゃんは、弱音を吐かず、私達には笑顔で接したんだ!」
「……それでも、隠しきれていない節はあった。目の下のくまや、ハリが失われた肌、ところどころ見え隠れする痛々しい痣。パサパサの髪の毛。覚束ない足取り。そして、光を失い、穴が空いてしまった瞳……」
それは、俺を非難しているのではなく、自分自身を責めているように見えた。
ズキン、と大きく心臓が脈を打った。
「大丈夫?って聞いても、大丈夫だよって、無理矢理笑って。耐えきれなくなったお姉ちゃんは飛び降り自殺を図った。」
そこまで言ったところで、花奈は俯き、黒髪が顔を隠した。
隙間から覗いた唇が気味悪く曲がり、ゾクリと悪寒がする。
「あの人をよろしくね、それがお姉ちゃんの最期の言葉だよ」
先程の気味悪い笑みは消え去り、哀しげな、諦めたような雰囲気を纏う晴れやかな笑顔が生まれていた。
眉根を寄せ、顔は血と涙と鼻水で汚れ、目は腫れて赤くなり、唇は震えながらも優しく曲がっていた。
これを、根拠は無いが、何かの前触れとしか考えられず、恐れている俺はひねくれているのだろうか。
ひりひり、と痛みがぶり返した。
「……お姉ちゃんは、最期の最期まで、笑顔で。お前のせいで、苦しんで自殺した癖に、あの人をよろしくねっ、て、死ぬ間際までお人好しだった。」
静かな声が、恐ろしくて今にも逃げ出したかった。
「だから……だから」
一度俯いたかと思うと、突然顔を上げ、勢いよく俺の背中を床に打ち付けた。
軋む体は反応できず、しばらく呆然としていた。