最低狩り
「私が……お姉ちゃんの代わりにお前に鉄槌を下す!!」
さっきの柔らかさは消え失せ、縮んだ瞳孔と、俺を押さえつける手の震えが、怒りを物語っていた。
「美奈は……きっとそんなことは望んでいない」
「ああ、きっとそうだよ!でも、お姉ちゃんが苦しい思いをしたのに、私はこのまま、のうのうと生きていられないんだ!!」
ゴキッ
今まで平手打ちだったのが遂に拳になり、頬に重い衝撃を食らった。
「うっ……!」
「お姉ちゃんの復讐が果たせたらそれでいい。他に何も望まない」
涙を流しながら俺に拳をぶつける花奈は、化け物そのものだった。
本当に何もかも捨てる気でいるのだ、と鳥肌が立つ。
全てを擲ってまでもことを成し遂げようとする奴が、一番怖い。
今、それを思い知った。
もう既に、手遅れなのに。
「お願いだ……やめてくれ……」
やめて、やめて、と蚊の泣くような声で懇願するしかない自分を情けなく思う。
恐怖で、胃もろとも吐きそうだ。
突き抜けるような痛みが顔中に走る。
「この、最低め」
……俺はここで。
"死"という言葉が色濃く俺の心に染み込んだ。
「ちょっと高橋さーん?その辺にしといてくださいよ?」
今まで無言だった『松谷くん』が口を開いた。
それと同時に、花奈の拳の豪雨も止む。
「僕が楽しめないじゃないですか」
「……しょうがないわね」
花奈が俺の上から離れたので、圧迫されていた胃が緩む。
だが、これからのことに、ある程度予想がつく俺は、全身の筋肉を緩めることはできなかった。