最低狩り
――伊達 八蔔(だて やつふく)、38歳。

現在独身、高校体育教師。

少し走らせたらブッ倒れた冷泉……だったか。

の面倒を見ている。

「ん……ここ、は……?」

虚ろな声が俺の足を動かした。

「起きたか」

俺が話しかけた瞬間、ひゅっ、と息を飲んだのが手に取るように分かった。

瞳が怯えから揺れ、不安定に煌めく。

「ったく、お前が倒れるせいで、俺がどうなることか……」

「す、すみませ……ん」

「謝っても遅ぇんだよ。もし俺に何か処分が下ったら、お前、責任とれよ」

「そ、そんな……」

赤かった冷泉の顔がみるみる青くなる。

「自業自得だな。ま、覚悟しとけよ」

最後に渾身の睨みをきかせ、保健室のドアを乱暴に閉めようとした。

しかし、冷泉が言葉を発し、手を止める。

「……最低狩りっていう職業があるらしいですから、気を付けたほうがいいですよ」

……はあ?

「何だそれ。俺が最低って、言いたいのか?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「じゃ、行くからな」
 
冷泉の言葉を断ち切り、今度こそドアを閉めた。

あの困った表情を作らせたことで、俺の中のわだかまりがすうっ、と溶けていく。

"最低狩り"って、何だ?という疑問が僅かに残ったが、まあ、のぼせて頭がおかしくなっていたのだろう、ということで完結させた。

「あっつ……」

ムワッ、と蒸し焼きにされそうな、じめじめした嫌な暑さがまとわりつく。

「行きたくねぇな」

だが、このまま行かなければ更に校長を怒らせることだろう。  

渋々ながら、足を動かし、校長室のドアをこれまた乱暴に破り開けた。

「何だ、伊達先生か。入るならノックくらいせい」

不快感を隠そうともしない老人の頭を睨む。

会うたび睨むが、光沢が消えることは無かった。

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