カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「雰囲気がガラッと変わりましたよね?」
「あぁ…これなら武地が撮ったものと比べても遜色ない、よな?」
聞かれて頷く。
「モデルも場所も構図もおそらく設定もほとんど同じ。でもなにが決定的に違ったかというとレタッチだったんです」
雪乃さんに写真を見せた時、『レタッチがすごく上手』と褒めていたことを思い出したのだ。
そして実際に武地さんのレタッチに近づけて編集すると別物のように変わった。
「でも綾音の表情は?」
「この優しく緩んだ表情ですよね?」
それは目の前に好きな人がいて幸せな気持ちになっているからだと私も思った。
でもレタッチをし直して見れば武地さんでも月城さんでも大差ないことがわかる。
つまり綾音さんは武地さんだけに特別な感情を抱いていたわけではなかったということだ。
「これは想像でしかないですけど」
そう前置いてから思ったことを口にする。
「綾音さんは楽しそうに撮影してくれている二人の姿を見て愛おしく感じたのではないでしょうか」
二人をずっとそばで見て来た綾音さんはカメラをやめた経緯も、二人の間に距離が出来てしまったことも知っていたわけで。
きっと何とかしたいと一番思っていたのは綾音さんだろう。
モデルに応募、というのが本気だったのか、きっかけだったのかわからないけど、それを理由に二人が今までと同じように並んで撮影をしてくれたのは嬉しかったに違いない。