カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「今度、その写真を持って綾音さんに聞いてみてはいかがですか?」
「そうだな」
月城さんは目を細めて写真を見つめ、それから首を小さく横に振った。
「やめておくよ。『月城くんのことなんて見てないわよ』ってあしらわれそうだし、荒波は立てたくない」
それは確かにその通りだ。
「余計なことでした。すみません」
謝るとまた月城さんは首を横に振った。
「謝らなくていい。今のは建前で、本音は武地がこの時を最後にするって言っていたからだから」
どちらにしても出過ぎた真似だったと反省する。
「武地は覚悟を決めての撮影をしたんだ」
だからこれほどまでに目を惹く撮影が出来たのだと合点がいった。
実際、レタッチで近づけたとはいえ、武地さんの写真の方が圧倒的に魅力的で神秘的で心惹かれる写真なのだ。
「あれ?でも武地さん、撮影していましたよ?」
「え?!」
月城さんが今まで聞いたことのないくらいに大きな声を出した。
驚いたけど、あまりに意外で笑ってしまう。
「いやいや、笑ってないで説明してくれ。武地は本当にカメラを手に取ったのか?」
「えぇ。正確に言えばスマートフォンですけど。のどかちゃんの七五三の撮影の時に撮っていましたよ。『パパも撮っていい?』って言って」
「なんだよ、それ」
月城さんは眉間に皺を寄せて頭を抱えた。
「それならそうと言ってくれたらよかったのに」
「そうですね」
でももしかしたら武地さんは月城さんほど重く受け止めていなかったのかもしれない。
もちろん、カメラを手放したくなるほど嫌な思いをしたことに変わりはないのだろうけど、消化するスピードが違ったのだろう。
これも想像の域を出ないけど。