カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
「最後の撮影です」
新郎新婦を誘い、夕日と被写体を前景に入れたシルエット撮影を行う。
「少し離れたところから少しずつゆっくりと奏音さんが歩み寄ってください」
奏音さんの手に服部くんが花束を握らせてくれた。
奏音さんはまるでバージンロードを歩いているかのようにゆっくりと一歩一歩着実に宮部さんに近づいていく。
「それから奏音さんは宮部さんの首に両手を回して、宮部さんは奏音さんの腰に手を回してください」
逆光で表情はハッキリしない。
でもふたりが微笑んでいるのが雰囲気で伝わってきた。
「では最後にキス、お願いできますか?」
この指示にはさすがに照れていたけど誓いのキスを彷彿させるような最高のシーンが撮れた。
「オッケーです!」
声を張り上げ、主役二人を盛り立てる。
「お疲れ様でした!」
「ありがとう」
「ありがとうございました」
奏音さんと宮部さんの言葉に笑顔で応え、服部くんにもお礼を伝える。
「手伝ってくれてありがとう」
「俺はなにもしてないよ。むしろ勉強させてもらって感謝だ。こちらこそありがとう」
手を差し出されて、握り返す。
「これからもお互いに切磋琢磨していこう」
服部くんの言葉に大きく頷くと、胸に込み上げるものがあった。
服部くんの写真に憧れて、教えてもらって、追い続けていた存在。
「カメラ仲間として」
そう言われたのが嬉しくて涙が浮かぶ。
「泣かすな。バカもの」
低く鋭い声で私を服部くんから引き離したのはもちろん。
「出た、独占欲丸出し彼氏」
服部くんが月城さんを揶揄うように言った。
「プロポーズも出来ないチキン野郎に言われたくない」
月城さんも服部くんに揶揄うような言葉をかけた。